2人の女性のモノクロヌード写真。
こんな写真がそこら中に、しかも品良く配置されているのは、とある都会の片隅にあるJAZZ Bar。
長方形のフロアを持つこのBarで、写真たちの存在に気づくには、訳あって一手も二手も後になる。
まず、入店して最初に眼に飛び込んでくるのは、グランドピアノとドラムとコントラバスたち。
こいつらは、偉そうにド〜ンとフロアの中央を占拠している。
店内奥にあるソファー席へ行こうと思ったら、客がわざわざこいつらを避けるように体をかわして通らなければならない。
この偉そうともいえる態度が、この店でのこいつらの存在感を、より一層強調していた。
それから、客の都合などおかまいなしに、突然演奏が始まる。
プロともアマとも判断しかねる3人組は、みな50代のサラリーマン風。
彼らは互いに目を合わせる事もなく、ピアノの音にチェロの音を重ね、最後にドラムの力強い音が加わり、ひとつの音楽を完成させていった。
彼らの都合で始まる彼らの音色は、客同士の会話を阻む事を恐れない。
だから私たちは大声で、そして何度か同じ言葉を繰り返しながら会話を進めざるを得なくなった。
この、客を客とも思わぬこの態度。
そう、ここの主役は紛れもなく、この楽器たち。
酒もソファーもヌード写真も、そして、客さえも、ここでは主役を引き立てる為の脇役でしかない。
ここでは、アルコールじゃなくて、音に酔う。
ここでは、言葉じゃなくて、目で会話する。
ここには、遠慮なんかいらない仲間と集まる。
そんなJAZZ BARは、数少ない人たちに強烈に愛されながら、今日もひっそりと営業している。