姉は、新しい恋人をすぐ母に会わせたがるのに対し、
母は、娘の恋人とあまり会いたがらない。
理由は、別れた後が辛いから、という事。
いちいちその相手に感情移入してしまうため、次の恋人を会わせられても、なかなか気持ちが切り替えられないらしい。新しい恋人の顔を見ていると、前の恋人の顔が浮かんできて、なんだか切なくなってしまう、との事だった。
世の母親には、娘と一緒になって「男の品定め」をする人も多いと思う。
「次はどんな人なの?早く会わせて!」「今回は気に入ったわ」「ちょっと軽いんじゃない?」などと、友達のように意見を言い合うのも楽しいと思うのだが、うちの母親はそんな気軽には考えられないらしい。
母にとっての娘の恋人とは、棚に並んでる商品のように比べて選ぶものではなく、あくまでひとつの個性を持ったひとりの人間として見ているのだろう。
だけどそんな母の情深さを、私はかわいらしいなぁと思っていた。
そんな母に、かつて私は一人だけ恋人を会わせた事がある。
その彼はいまや”元彼”という存在になってしまったが、母のタンスに飾られた数ある写真立ての中には、なぜか今も彼の写真が残されている。それは何の因縁なのか、撮影した1ヵ月後に離婚したカップルの結婚式の写真だった。それも、もう二度と会う事はないだろう、かつての親友の・・・。
それはいわば、”全てが過去の象徴”のような写真。
早くはずせばいいのに・・・。
そう心の中で思いつつ、そこに写るみんなの屈託ない笑顔を見ていると、まるで、何も過去になんてなっていないかのような錯覚に陥らされる。
そして現実に引き戻されたすぐ直後、人の気持ちの移り変わりを思い、ちょっとした切なさが私を襲う。
あの頃は、当たり前のように受け入れられていたものが、
今はもう、拒絶の対象になっている。
たった数年の間に、いったいいくつのものが作られ、そして壊れていくんだろう。
全ての感情は、なんて脆くて、そして儚いものなんだろう。
「結婚をするわけでもないのに、会いたくない。」
そう言い続ける母も、もしかしたらきっと、同じように感じているのかもしれない。
時間に勝てずどんどん色褪せていく絵を見るように、その無情さを悲しんでいるのかもしれない。